近年におけるシナリオゲーの傑作と名高い『euphoria』の内容で気になる点がいくつかあるので少し頭の整理もかねて簡易考察(他の名作と違いそこまで文章が練られていないので解釈の要素あり)を書いてみようと思います。プレイしたのが大分前なので記憶が間違っている可能性あり。ネタバレが多いので未プレイの方は絶対に読まないで下さい。面白いゲームなので勿体ないです。
【内容のおさらい】
叶と合歓の取引のもと、地下ゲームは行われていた。その内容は「瀕死の恵輔を助ける代わりに合歓が恵輔から殺したいほど憎まれること」。叶ルート以外は全て非現実のもの。叶ENDの結末こそが叶と合歓の取引の結果であり、叶ルートこそがTRUE END。
【叶と合歓】
この二人は明らかに対比されています。合歓は恵輔から憎まれる存在として、叶は恵輔から愛される存在として。しかし更に大事なのはこの二人の立場がゲーム開始前と開始後で”入れ替わっている”こと。「恵輔は記憶を操作されている」という記述しかないのできちんとした根拠を示すのは難しいですが、叶ルートで目が覚めた後の叶のキャラクターと地下ゲーム時の合歓のキャラクターが似ていることからそう結論付けていいと思います。そしてここがこの作品における肝の可能性大。理由は後述。
【叶END】
合歓と叶の取引の結末。叶がレイプされそうになり恵輔は逆上します。そして合歓の首へ手をかけますが結果は、なぜか殺せない。殺したくないというもの。これはなぜかと言えば「頭のどこかで合歓を優しい幼馴染だと覚えているから」でしょう。根拠を考えるだけ野暮です。
【六慶館学園】
六慶館という言葉が何を指すのか。私の勝手な解釈ですが恵輔の”恵”を慶、感情の”感”を館と置き換えたのではないでしょうか。そして気になるのは六という数字。これは最初に地下ゲームが始まった時点での女の数と等しいです。そして、狂った地下ゲームの始まりは真っ先に”真面目”な委員長が死ぬこと。ここから、『euphoria』は『ゴア・スクリーミング・ショウ』や『好き好き大好き!』のように人間の心理的なものを表しているのではないかと考えられます(リカは甘え、叶は優しさなど)。
【地下ゲーム】
地下という単語で私が最初に連想するのは『好き好き大好き!』の地下室です。あの地下室は主人公の下心を表していました。先の六慶館の解釈からも、主人公の内に秘めた欲望が実行される場であることからもこれは正しいでしょう。しかしもう一つ連想されるものがあります。『地下の国のアリス』こと『不思議の国のアリス』です。『不思議の国のアリス』は少女アリスが地下の穴へと落ちて不思議な世界へ行ってしまう話ですが、”少女が初潮を迎える朝に見ている夢”を描いたものではないかとも言われています。ここで一つの疑問なのですがもしも、少年が地下の穴へと落ちたなら、どんな”夢”を見るのでしょうか。それはきっと――。
【叶はなぜ地下ゲームをもちかけたのか】
合歓を絶望させるチャンスだからというのが通説。全くもってその通りですが合歓と叶の対比、そしてわざわざ自分と合歓の評価を入れ替えたことなどから叶は恵輔を想っていたと考えるのが自然か。つまり地下ゲームは合歓を恋敵とした叶の真剣勝負。しかし結果は――惨敗。
【合歓の敗北】
どのルートでも気丈に振る舞い、陵辱をも受け入れ恵輔を想い続けた合歓。しかし彼女は一度だけ敗北し夢の世界へ逃げます。それは恵輔の前で他の男達に犯されたとき。今までどんな現実にも屈しなかった合歓の心が折れます。もちろんこれは虚構世界での話ですが、わざわざ描かれているのは合歓の恵輔へ対する想いの深さを証明するため。そして叶にとっては試合(ゲーム)に勝って勝負(恋)に負けた瞬間です。
【Fuck you・・・】
「お前のこと好きだったからな」という恵輔に対して瀕死の叶は「Fuck you・・・」と返します。これはなぜかというと先に述べた通り、”合歓と叶の立場を入れ替えていたから”。すなわち「お前のこと好きだったからな」という恵輔の発言は合歓に向けられた愛情。恵輔は記憶操作の真実を知らないため、そういった意図があるわけではありません。これは恋敵である合歓との勝負に負けた叶にとって、追い討ちをかけられたのと同じ事。だからこその「Fuck you・・・」。当然叶の発言も逆の意味を指していると考えるべきなのでこれはつまり「愛してる」と言っているに等しい。
【愛よ 蛇の化身になれ】
表題はOPから。地下ゲームにおいて合歓はまさにアダム(恵輔)とイヴ(叶)を誑かす蛇となりました。しかし恵輔にとって楽園(地下)から追放された先はまさに地獄。恐らくですが思春期の少年にとって他の男が存在しない世界こそが夢なのでしょう。そして現実は他の男が跋扈する世界。これはあくまで恵輔の世界ですが蛇(合歓)にとっても辛い世界だったに違いありません。しかし恵輔を助けるために辛い世界を生きる。これがOPの歌詞が示している内容ですが、蛇は合歓一人ではありません。
合歓は幼い頃、恵輔との楽園を失い最後には虚構の楽園すらも否定されます。アダムとイヴよろしく”楽園”を追放された合歓と恵輔ですが、ここでの蛇は叶。そしてOPの歌詞を見てみると
「世界中の哀しみ抱いても叶えてあげる 本音聴かせて
憎しみでも あなたの記憶を私だけで
満たせたら 何もいらない」
この”私”は合歓であり叶でもあると考えてみると、今までの解釈に筋が通る気がします。
「憎しみでも あなたの記憶を私だけで満たせたら 何もいらない」という歌詞だけを見ると、本編から合歓の心情のように思えますが同時に叶の心情の可能性大か。
『euphoria』は、合歓と恵輔の純愛物語であり、そして叶の失恋物語だと考えられます。
【TRUE END】
ラストのシーンで合歓が記憶無くしてるのがダメだの、状況が絶望的でBADENDみたいなものだの、もっと描けだの言う方がちらほらいますがそれは誤りです。気持ちは分からなくもないですが、ラストシーンの合歓は最初に記憶を無くしていた主人公と立場が対比されているのは明白。つまり地下ゲーム初期段階の主人公と同じ状況に合歓はあり、主人公は地下ゲーム初期段階の合歓と同じ立場にいる。地下ゲームにおいて合歓は主人公を守り通せました。そこから主人公も合歓を守り通せる事をラストの時点で暗示しています。